novel

fu・ryu・sen  

渡り砂漠を向こう舟

収録

刊行

14

ページ

5113

  • ミニ短編集-砂漠

  • 試し読み

 輪郭が嫌になった。形をなくしたくなってググってみた。変なアフィリエイトが出てきたのでやり直し。英語で検索してみる。それっぽいのがあった。イヤホンをつけて服用する。すぐに空気となじんでいっしょになる。土のかおりのするほうへいってみた。郵便マドからすりぬける。パッとかおるアスファルトと埃のにおい、きのうの雨が呼んだんだ。土をたぐる。ためしにいってみる。どこまでつづいてるんだろう?星のせせらぎに流される。じかんと同じ早さのせせらぎ、ゆっくりと重みも感じるけれどツブだっていてきもちいい。だれもいなくなったバス停におばけがいる。ぽそぽそひとりで泣いている。泳いでも歩いてもいないおれは移動した。

どうしたのさ。なにか悲しいのか。

なにが悲しいかって、自分でいるのがとてもむなしいよ

なんでさ?

僕はほかのおばけとはワケが違うんだ。

なにが?

なにがって、生きたことがないし死んだこともないんだ。おばけとして産ま れたおばけなんだ。だから他のおばけのように、この世の思い出も気持ちも なんもない。それがかなしくってむなしいよ。それじゃあ、僕はなんでおば けに産まれたのさ?

  生きたことないのに、死んでるの?

違う。全然違う。君だって死んだことないのに生きてるじゃないか。それっ ておかしいし、さびしいよ。

 おばけ、またわっと泣き出した。なんだかかわいそうになったおれ。

そんなうつむいて泣いてたって良いことないよ。なんか楽しいこと探そう よ。君はどうしたいの?

おばけをやめたいよ。死にたいな。

たしかに、死んでる時に死ねば、産まれるかもしんないからね。

 おばけ、うんうんとうなづいた。テキトーに言ったけど、どうやら正しいらしい。

思い出を作れば死ねるのよ。でも、できっこないんだ。僕は生きたことない から。思い出とか、気持ちとかを持ってる、生きたことのあるおばけしか死 ねないんだね。

これから作ればいいじゃないか。どっか行きたいとこないの?

……京都とか?

 んで、京都観光しにいった。一緒になかよく空気にまざって京都に向かった。その気になればあっという間についた。まずは金閣寺を見て清水寺を見て大体の有名どころを回りきると、小さなお寺、坊主たちの坐禅を見学した。それをマネしてやってみた。おれもおばけもそこにいるだけで形がないから、誰にもバレやしないのだ。おばけ、終始ぽこぽこした顔してる。

なんか……悟った気がする。

なにを?

ぜんぶさ。なんか、もう禅って響きだけでいいね

ひびき……禅!

フヘヘへ……禅!

 なんてふざけてたら、和尚さんが坊主の一人をぴしりと打って、おれたちも釣られてビクってなった。

 禅でキッパリした後は博物館に行く。おばけは戦国時代の湯呑みにご執心。

気に入ったの?

うん、これみたことある気がする気もするんだ。

みたことあるってお前、何年前よ。

一千年はこの世にいるよ。この色とこの形、うっすら忘れられないんだ。

君に色がないから?形がないから?

どっちもさ。

 そう言っておばけはまたぽそぽそ泣いた。

泣いたのはなんでだろ。

ここはふしぎだね。いろんなときと場所で作られたものが、一つのところに 集められてる。まるで最初から、ここにいっしょにずっといたように、それ ぞれのモノとモノが仲良しだ。

そりゃそうさ。ここでは生まれたら最後、作られたら最後、年齢もきれいか も生きてんのか死んでんのかえらいか立派かも関係ないんだよ。すべてが同 じ時の中にある。きみが今、何かのモノを作ったとしても、それもその中の 一つになる。それが、何かをつくるってことさ。つくったらさいご、すべて 同じ時の中で並べられる。きみがこれからつくるたまごもいっしょさ。

 おれはも一度土の匂いをたぐる。ここに匂いの根源があるようだった。ノドが震えるほどの土のカタマリを感じる。コンクリと鉄筋とガラスにかこまれた、いくつもの部屋の隙間から。

それって面白いね。いけるのかな。過去にもこれからにも。

いけるさ。今も、これからの予兆はある。ほら、あそこにも。

 ロッカーが並ぶ狭くて薄暗い通路の中、ロッカーとロッカーの、ビー玉ほどの幅の隙間に匂いを見る。すり足で部屋を横断してそこに着く。隙間の先は暗い。

いけるのかな。

いける。おれたちは物質をやめてしまった。

 二人で暗くて狭い隙間を抜けて出るとすぐ、振動の波に押された。どこかの空港の廊下。広くて大きくて果てしなく長い廊下。ガラスの向こうで光にまみれて飛行機が並んでる。

dehaze