くたびれた夏の夕暮れ、少しずつ心が開いていくような気がした。暑さに疲れ、歩き疲れ、話し疲れ、考え疲れ、疲れに疲れた末にようやくほどけた。日差しと熱が盛りを過ぎて、くたびれた草木もアスファルトもようやく気を抜いた。そこを俺は一人で歩いていた。
その日は最高気温が三十五度を超えていて、もう何が何だかわからないまま水を飲み続けて外を歩いた。十五時を超えると気温もピークを終えて、そろそろと緩やかになっていく気配があり、それに呼応するようにして、俺の心が少しずつとけていった。
優しさに満ちた気分だった。誰にでも優しくできそうな気分。誰にでもできるが、君に一番優しくしたい気分。明日から君に優しくしようと思うそんな気分。そんな気分で俺は境内を歩いている。自分がなぜここにいるのかわからないが、それもどうでもいいぐらい心が開いていく。
そこいらの茂みの影と同化できそうなくらい俺は何にもなれる。身体が傾いてちょっと斜めに歩いた。汗を拭っても拭いきれないほど流れていた。自分は木陰で、池に植った蓮の葉で、通りかかる人々の帽子で、名前も知らない神社の建造物で、用途のわからない祀られている大きな石で、つまりはどれもがこの暑さでくたびれきっていたのだが、だからこそ、その一点ですべてと一つになっていたことに気づいた。今なら全部諦められる気がした。
遠くで、俺に向かって手を振っている人たちがいる。誰なのか思い出すのに時間がかかった。そういえば俺はこの人たちと一緒にここに来たんだった。いつの間にか俺は一人になってたのか、なんで一人になっていたのかも思い出せないけど、それもどうでもいい。これから夜に向かって、ゆったりと冷めていく大気、俺の心もそうだった。
その人たちとゆっくりと歩いて駅へ向かう。この帰り道、あとは沈むだけの太陽が俺には痛くも心地良くもある。なにもなしてないのに成し遂げたつもりになって、ちょっとだけ背伸びをしたような気持ちで好きなように歩いていた。その人たちと歩いているだけなのに、俺は一人でこっそりと、誰よりも自由に歩いているようなこの奔放さよ。