土曜の朝はおさんぽ感覚でデモ行進に混ざろう。ルーアンからセーヌ川まで大股三歩であっという間。その日暮らしの労働者たちが、行進に少しずつ混ざって増えていく。名前も知らない人と人で、本当なのかわからない名前で自己紹介をしあおう。
時には立ち止まったりもする。皆が見上げているのでそっちを見上げると、アパートの窓から真っ白いピレニーズ犬が顔を覗かせている。ピレニーズだって黄色いジャケットを羽織っている。僕たちとお揃いだ。それを見て皆で歓声を上げた。
「un chien aussi!un chien aussi!」
犬も仲間だってさ。確かにそう。犬だって仲間だ。
ピレニーズは人間どもが何で騒いでんのか理解してなさそうだけど、何やら自分に向けられているので気持ちよさそうに舌なんて出してる。
黄色いジャケットが反抗の象徴。車にはいつも黄色いジャケットが入ってる。それを着てみんなで歩くんだ。休みの日の朝はおさんぽ感覚で偏見を吐き出す。
マルセイユからリヨンまで助走をつけて飛び上がる。バス停のガラス壁は石ころで粉砕して、公園のクズ籠に火をつける。
催涙スプレーを撒き散らされても気にしない。パトカーで道を阻まれてもその上を歩いて越える。とにかく進み続ける。知らない者同士、と犬と一緒に。それで月曜日になったらそれぞれの仕事に戻ろう。
主人はプラカードを抱えて歩いていて、ちょっと横を見ると、ピレニーズも一緒に歩いていた。ピレニーズの飼い主はメガネをかけてちょっと髭のはやしたおじさんで、どことなくアリアスターに似ているから怖い。笑顔で傷つけてきそう。ピレニーズはそんなことも思わずに、デモ行進と一緒に散歩してくれる。視線を感じたのか、ちょっと首を傾げて目を合わせてくれた。ドキッとするような純粋なまなざし。
お前も俺と一緒だろ?と言ってくるような目だ。それもそのはずで、デモの大義など僕にとってはどうでもいいんだ。行進に混ざりながら、ただ自分の散歩欲を満たすために歩いてる。お前も俺と一緒さ。行進に属してるようで、恐ろしく素面のままの個人だね。
夜になると、街にいた人々がどこからともなく出てきて、アパートに集まる。犬のいる一室に。
その部屋と犬の主人がリーダーだ。その週のデモ行進の計画を立てる。どこで、誰に呼びかけるかについて、議論を交わし合う。時には白熱して大きな声を上げるものがいる。涙を流して話せなくなるものもいる。お互いの肩をそっと撫であって、苦しみを分かち合うものもいる。そのどれもを、犬は部屋の隅からしっかりと見つめていた。集会をしている最中、テーブルの下の人々の足がたくさん集まる部分が犬は怖かった。人々の声よりも、顔よりも、感情を表しているようだったから。
決まって集会の終わりになると、主人が犬を抱き抱えてテーブルのど真ん中に置いた。みんなが思い思いの声をかけて犬を撫でる。何十本もの手に撫でられて犬は訳がわからないが、そのまま好きなようにさせてやる。その後にウォッカで乾杯をして、集会は終わる。皆が皆、意志を新たにそれぞれの家に戻るのだ。みんなが帰って主人と犬だけになると、家は少し寂しそうになる。