石
かつて彼と二人で秘密の上に石を置いた。彼とは他にないほど固い信頼で結ばれていた。彼もそう思っているだろう。だから、その石はとても重くなった。その証拠に、何十年間も石は少しも動いたことがなかった。そこにあるものをしっかりとそこに留めていた。
決して誰にも明かせない秘密だった。彼と私以外の、他の誰かが知ったら、私はもう二度と口をきけなくなる。彼もきっとそう思っているはずだ。そんな秘密だった。やがて、彼と私は離れなければいけなくなった。彼が私の(私が彼の)そばを離れるとき、二人で石を置いたのだ。私たちはお互いにほほえみあいながら別れた。
彼がいなくても、私は石の存在を身体のどこかで感じていた。それは秘密の証でもあり、彼との信頼の証でもあったから、私にはなくてはならないものだった。
仰向けになった私の頭上に、ちょっとの時間が通過する。私はそれが気になって目が離せない。
石があるのはなぜなのか。ある視点から見ると、石はいつか動かされるためにある。石はいつかそこを開くために塞いでいる。だから彼と私の石も、いつかそこを動く時が訪れるかもしれない。
幼い頃の私は、それをどう思うだろう?今の私は、それを受け入れるかもしれないし、諦めるかもしれない。けれどそれでいい。たとえ口をきけなくなっても、打ちひしがれても、それでもいいと思える。時間はあらゆるものを引き連れて過ぎ去っていく。それは水の流れであり、寒波であり、羊の群れであり、人の波であり、季節のうつろいでもある。そのはずみに、何億年間も動かなかった石が動くこともある。それは誰にもわかるはずもない。石は動くべくしてそこから動かされ、秘密が風にさらされていく。
こうして彼と私の秘密は去っていく。あとに残るのは床ずれた皮膚のような地面だけ。
また別の石
また別の時は、石は深く地中に根を張る石だった。ずっと昔、俺が生まれた時からそこに置かれた石だった。最初は何も感じなかった。石はそこにあって当然だと思っていた。それは時には自分を支えたが、ある時には自分を苦しめてもいた。
いつからだろうか、それが重みにしか感じられなくなっていた。誰かと遊んで駆けまわる時も、眠りにつくときも、石は確かにそこにあって、確かに重さを感じていて、その重さで潰されそうな時もある。石を取り除こうとしても、それはやはり深く根を張っていたのだった。掘っても掘っても動かない、びくともしないのだ。それで途方に暮れた。どうしようもないと思って、そこから遠い場所へ行くことにした。
けれど、どれだけ遠い場所へ行っても、確かに石の重みを感じる。重みを感じるたびに、もっと遠い場所を目指した。どこに行っても、石を中心に自分の居所は広がっていった。広がっていると感じたのは、石の重みを乾いた眼差しでみれるようになってから。
考え方を変えてみる。石をぞんざいに扱ってみる。自分の都合のいい時だけ引き寄せる。いつからか、石は石の形を透かしていき、いつからか、それは自分の身体に馴染んでいく。それがいつ、完全に無くなるのか、無くなることは一生ないのか、それはわからないけど、ちょっとずつでも時間をかけて、ある時は石を動かさずして自分が遠くへ行き、ある時はちょっと目の向きを変えてその場から無くすことはできるのだ。
本当に無くなった時は、その時は、石を俺から誰かへ植え付けられる邪悪を身につけているに違いない。