こんなやり口を考えた。はじめに考えたいことを考える。そんでいいところで切り上げる。それ以上考えちゃだめで一週間ぐらい寝かしておく。また続きから考え始める。
あの子、眠る時に足のかたっぽをベッドからはみ出す。夏のブランケットも真冬の布団もそう。ベッドに入ってしばらくしたら、もぞもぞ動いて片足だけで抜け出す。無意識に。だから、足から身体が冷えていって、毎朝鼻をずるずる鳴らしながら起きる。彼女はそれを鼻炎だと思ってる。足が出てる自覚なんてこれっぽっちもないんだ。
あの子、まどろんでる時に、覚えていることをさかのぼりたがるんだね。その日一日のこととか、その日にやったことの段取りとかをね。さかのぼる時は決まって、一番最後からひとつずつ順番にさかのぼっていく。Mが最後で、その次にLが来て、それからKをやっていた。Hがあったけど……その前にはJもあった、それをひたすら、その日の朝にたどりつくまでさかのぼる。思い出したてはおぼろげだけど、じっと時間をかければ彼女、絶対に鮮明に思い出せるんだ。彼女はおそろしく記憶力がいいからね。そんなことをしているうちに、気づいたら眠っている。なんのためにもならない。けど、さかのぼりだしたら止まらない。さかのぼると身体がほてる。左足は特にね。かわいそうな体質だけど、そういうわけで足を出してる。足がそれをあらわしてる。
でも彼女は本当に苦しんでるんだ。
どうでもいいことだってさかのぼる。
友達の悩み事だって、犬のしぐさだって取りこぼさずにさかのぼる。
でもそれにくたびれてもいる。
だからいつもぼんやりと求めてる。自分の記憶を止めてくれる人を。忘れさせてくれる人。おれは足を見るたびに思う。彼女の記憶の行き先を。あたたかな寝室が、彼女をこぼれおとすことなく眠らせてくれたらいいのに。
……ってのが彼女のあらましで、これから君は初めて対面する。起きたら挨拶するんだね。で、おれの話聞いて、純粋に彼女のことを知れんの?ってのは意地悪すぎるか?そんなことないと思うぜ。