novel

本棚たち/bibliothèque

旅のような庭

収録

刊行

7

ページ

1779

  • 3rd短編集-旅のような庭

  • 試し読み

    見上げる本棚

 見上げるほどに背の高い本棚の、一番上の本をいつ読もう。小さい頃からずっと見上げてる。

 下はひきだし、平積み、中はぎっしり、ちょこっと顔をみせて、数が減って一番上はこっちを見下ろしている。

 上にいる本はきまって大きい。分厚くて、ピカピカしてたり、大きな写真を大きくのぞかせたりしている。

 彼らは一体何人の手に触れてきただろう?誰の手も届かないようなところで、気高く立っている、あの本はどんな本なんだろう?

 いつかは開いてみたい、何年経ってもずっと変わらずにそこにいる本。

 誰の目にも届かない本。今日も何人もの人々が気付かずに通り過ぎていった。モノほしさに本棚を見上げるチビっ子だけが気づくけど、手にとれやしない。背伸びしても脚立に乗っても届かない。母さんに叱られて捕まるのがいつものオチ。

 夜になると誰もいなくなる、夜の本棚。他の誰よりも重力を感じている一番上の本。モノ言わずに今もそこにたたずんでいる。

 大人になってもずっと見上げてる。今もずっと手が届かない本。

知らない本棚

 知らない街の図書館をのぞく。自分の街よりも旨そうな本がたくさんあって腹が立った。

 一日では読みきれなさそうな厚さの本を読む。とても難しくて、途中でやめた。本を棚に戻して、次の目的地へと向かうために図書館を出た。

 道中、読みきれなかった本を思い出す。あの本はどうなっただろう?誰かに借りられたのか、皆諦めてそこに置いてあるのか。あの本は難しいままなのか。俺は読み終えることができるのか。

 気になって、また別の街の別の図書館に入った。あれと同じ本を見つけて、続きを開いた。

 難しくて、また途中でやめた。本を棚に戻して、次の目的地へ出発した。

 道中、読みきれなかった本を思い出す。どうせ読んでも、難しくてまた途中で諦めて閉じるだけなのだ。そう思いながら、家に帰った。

 帰宅してから二日後、また本を思い出す。どうしても忘れられないのだ。読みきるまでは、ずっと旅が続いているような気がした。

 だから、また旅行に出た。本を読み終えるために。

 何度も挫折と再開を経て、本を読み終えた。本を読み終えてわかったことは、自分には難しすぎてその本はわからないということだった。それをわかってよかった。

 俺はきっとまた旅に出る。そして知らない街の知らない図書館で、再びあの本を最初から読み始め、そこから旅が始まる。

dehaze