novel

ロックバンドかなにか/quelque chose the band

旅のような庭

収録

刊行

7

ページ

2958

  • 3rd短編集-旅のような庭

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 硬派なサウンドでナンパな歌を歌いたい。そう思っていたはずなんだが、今、サウジアラビアのテントにいる。どうしてこうなった?ケンジもサバヤンもリョースケも誰一人いなくなって、ギターはコラム、ベースはセーイェ、ドラムはフィルがやっている。俺は俺で三人に囲まれてしゃがみ、サンプラーで自分の足音をサンプリングしている。

 どうしてこうなった?俺は何も言わずにバンドを解散して、何も言わずにソロで活動を始めた。誰も解散した理由を知らないけれど、わかってくれるだろ?それは奴らに言っているのか、俺自身に言い聞かせてるのか知らんけど。

 解散したらまずやるべきこと、眉毛全部剃ってみろ。3ミリに髪を切って、緑に染めてみろ。耳と鼻にピアスをつけてみろ。全部やってみた。解放された気はしない。けれど音を出せばわかる。この格好で出す音は、確かにさっきまでとはまるで違うんだ。ピックで弦をはじく。やさしく。小さな音が出るが、腹の底でも振動を感じる。さっきとはまるで違う感覚。まだ掴みきれていないが、俺は俺だけの音に近づいているのを予感する。

 それはつながってもいるし、離れてもいる。それでいい。わかるだろ?ただその時に鳴るべくして鳴る音を鳴らすだけだ。だから、もう鳴らなくなってしまった音もある。いつからか。それはわからない。けれど今はもう鳴らないことだけが確かだ。だから俺たちは解散した。解散に意味はない。

 それなのに、この感覚はなんだろう?解散したはずなのに、まだ続いている感覚が、腹のどこかにある。後悔しているわけではないけれど、確かに俺の身体の中にある。俺はそれをなるべく気にしないようにした。今はただ、俺がどんな音を鳴らせるのか、鳴らせないのか、そこに集中するべきだ。鳴らなくなった音はそのまま捨て置け。今鳴らせる音はなんだ?それを考え続けなければいけない。

 「新曲作ってきた!」俺はすぐにスマホとスピーカーを接続して、デモ音源を再生した。三人とも思い思いの姿勢でそれを聴いた。曲が終わると、三人とも満足したように頷いた。

 コラムが尋ねた。

「ドリームポップだね。悪くない。歌詞は何を歌ってる?」

「歌詞はどうやって人を傷つけるかを歌ってるんだ」日本語で書いた歌詞を俺は説明すると、だんだん三人の顔が曇ってきた。

「どうしたんだよ?」俺がツッコむように言うと、三人が顔を見合わせた。

「どうしたって……なんで傷つける?」フィルが尋ねる。

「音楽やってる限り、俺はずっと加害者だからさ」それで三人とも黙った。

 これはバンドじゃない。あくまで俺のソロプロジェクトで、彼らはサポートメンバーだから拒否権などない。俺がやると言ったらすいかの曲だってみかんの曲だってやるのだ。みんなにはかわいそうだが、俺はやる。

 夜は一人でパソコンに向かって曲を作る。バンドをしていた時からそれは変わらないが、たしかに変わってしまった感覚がある。人生を自分の手で動かしている感覚。もう戻れないから進み続けるしかないという実感。

dehaze